もしもの時、命を守る!災害時の「高齢者の移動手段」と安全な避難介助の具体策
近年、地震や水害、大規模な災害が増える中で、「いざという時、体の不自由な高齢者をどうやって安全に避難させるか」という課題は、私たち全員にとって重要なテーマとなっています。
特に、自力での移動が難しい高齢者や要介護者(避難行動要支援者)にとって、災害時の迅速な避難は命綱です。しかし、エレベーターが止まった、瓦礫が散乱している、といった状況下では、平時の移動手段は通用しません。
この記事では、災害時における高齢者の安全な移動手段に焦点を当て、家庭や地域で今すぐできる備えから、実際に役立つ移動介助のテクニックまでを具体的に解説します。大切な家族や地域の方の命を守るために、ぜひ最後までお読みください。
1. 避難時の状況別!高齢者の移動手段と対応策
災害の状況や高齢者の身体能力によって、最適な移動手段は異なります。
1-1. 自力歩行が可能な高齢者(杖・歩行器利用者含む)
自力で歩行できる方でも、災害時は瓦礫や段差、混雑により転倒リスクが高まります。
移動手段 | 特徴と注意点 |
付き添い歩行 | 安全の基本。必ず支援者が半歩斜め前に立ち、腕や肘をつかんでもらい、進行方向や路面状況を声に出して伝えながら誘導します。高齢者の歩行速度に合わせることが重要です。 |
杖・歩行器 | 普段から使い慣れたものを持ち出します。折りたたみ式の杖を防災リュックに備えておくと便利です。ただし、瓦礫の上などではかえって危険なため、状況に応じて介助者が支えます。 |
履物 | スリッパやサンダルは転倒の原因です。普段からかかとのある履き慣れた靴を枕元などに用意しておきましょう。 |
1-2. 車いす・電動車いす利用者
平坦な道では有効ですが、災害時は段差や不整地、階段が大きな障害になります。
平地・多少の段差:
車いす(介助): 瓦礫や破片によるパンクを防ぐため、災害時はノーパンクタイヤの車いすが理想的です。
段差の乗り越え: わずかな段差でも衝撃は大きいため、後ろ向きにしてゆっくり下りるなど、可能な限り衝撃を与えないよう慎重に操作します。
階段・垂直避難:
階段避難車: 建物の上階から安全に下ろすための専用器具。福祉施設での備えが中心ですが、地域やマンションでの導入も検討されています。
簡易担架・シート(後述): やむを得ず階段を移動する際の最終手段となりますが、複数の支援者による適切な介助が必要です。
1-3. 寝たきり・要介護度が高い(移動困難者)
自力での移動が完全に困難な方を移動させるには、特別な資機材と複数の人手が必要です。
簡易担架・布担架: ポリエステルや帆布などで作られた、軽量でコンパクトに収納できる担架。少人数の支援者で搬送できますが、衝撃に弱いため、路面には注意が必要です。
背負い搬送具(背負子): 高齢者を背負って運ぶための器具。両手が空くため、支援者が安全に移動できます。横抱きよりも安全かつスピーディーに搬送できるとされます。
マットレス・シート型搬送具: 普段使っているマットレスやその下に敷き込むシート自体が、緊急時に身体を固定して床を引きずるように搬送できるよう工夫されたもの。衝撃を吸収しやすく、不整地でも移動しやすい利点があります。
2. 命を守る!安全な「介助テクニック」と心得
資機材がない状況でも、安全を最優先にした介助の知識は命を守るカギになります。
2-1. 介助は「声をかける」ことから
移動を開始する際は、必ず「これから〇〇へ移動します」「段差がありますよ」など、状況と動作を分かりやすく具体的に声に出して伝えることが大切です。特に視覚や聴覚に障がいがある方、認知症の方には、落ち着いて、ゆっくり、はっきりとした口調で接し、不安を取り除きましょう。
2-2. 複数の人数で協力する
高齢者や要介護者の介助は、一人で行おうとすると非常に危険です。転倒や腰痛などの二次災害につながりかねません。
基本: 援助が必要なときは、必ず複数の人で対応しましょう。
協力を求める: 近くにいる人や近隣住民、自主防災組織などにためらわず協力を求め、「おんぶ」や「担架での搬送」など、最も安全な方法を選びます。
2-3. 日頃から「避難行動要支援者名簿」に登録する
災害時、自力避難が困難な方を把握するため、各自治体は「避難行動要支援者名簿」を作成しています。
重要性: この名簿に登録することで、災害発生時に行政や地域の支援者が安否確認や避難支援を行う際の重要な情報源となります。
行動: 在宅介護中のご家族は、お住まいの自治体で登録の有無と、情報提供の同意手続きを必ず確認しておきましょう。
3. 今すぐ始める!家庭と地域の「事前準備」
災害時にパニックにならず、安全に移動するための準備が最も重要です。
3-1. 避難経路の「バリアフリー化」と確保
経路の確認: 自宅から避難所までの道のりを、車いすでも通れる道幅やスロープの有無など、高齢者の視点で確認し、地図に残しておきましょう。
家具の固定: 災害時に家具が倒れて避難経路を塞がないよう、L字金具や突っ張り棒などで家具を固定し、電気コードなどにつまずかないよう整理整頓をしておきましょう。
寝室を1階に: 2階で介護をしている場合は、エレベーター停止時に階段の昇降が困難になるため、1階への居室移動も検討しましょう。
3-2. 高齢者向けの「防災グッズ」の準備
一般的な防災グッズに加え、高齢者特有のニーズに応じた備えが必要です。
移動補助具: 杖、車いす(できればキャリー型)
常備薬: 薬は最低でも3日分、できれば1週間分の予備を確保し、「お薬手帳」と一緒にすぐに持ち出せる場所にまとめておきます。
介護用品: オムツ、パッド、入れ歯洗浄用品、やわらかい介護食(高栄養タイプ)
連絡カード: 氏名、連絡先、持病、かかりつけ医、必要な介助内容を記載した「緊急連絡カード」を常に身につけてもらいましょう。
高齢者の安全な避難は、日頃からの準備と、地域・家族の連携にかかっています。今日からできる小さな備えを積み重ね、いざという時に大切な命を守る体制を整えましょう。