【知っておくべき現実】帰宅困難者になるリスクと備え:災害時に命を守るための行動指針
大規模災害(特に首都直下地震や南海トラフ地震など)が発生した際、自宅から離れた場所(職場、学校、外出先など)にいて、交通機関の停止により帰宅できなくなる人々を「帰宅困難者」と呼びます。
2011年の東日本大震災では、首都圏で約515万人が帰宅困難者になったと推計されています。また、今後30年以内に70%の確率で起こるとされる首都直下地震では、東京都内で約450万人(内閣府推計)もの帰宅困難者が発生すると予測されています。
あなたは「自分は大丈夫」と思っていませんか? 多くの人が都市部に集中して活動する現代において、帰宅困難者になるリスクは決して低くありません。この事態を正確に理解し、適切な備えと行動方針を事前に決めておくことが、あなた自身と社会の安全を守るために不可欠です。
この記事では、帰宅困難者が直面する具体的なリスクと、それに対処するための**「取るべき行動」と「平時の備え」**を解説します。
見出し1:帰宅困難者が直面する4つの重大なリスク
一斉に帰宅を試みることで、単に家に帰れないというだけでなく、命に関わる深刻なリスクが発生します。
1-1. 群衆雪崩(群集事故)による死傷リスク
危険な混雑: 大量の人が一斉に歩道や車道に溢れ、満員電車以上の大混雑が発生します(6人/㎡以上の混雑度)。
集団転倒・圧死: 混雑の中で誰か一人がつまずいたり転倒したりするだけで、後続の人が折り重なり、群衆雪崩や圧死事故が引き起こされる危険性があります。地下街の出口や狭い歩道などが特に危険です。
1-2. 二次災害や建物倒壊による危険
落下物・飛散: 徒歩で移動中に、耐震性の低い建物の一部が崩壊したり、ガラスの破片や看板などが落下・飛散したりすることで死傷するリスクがあります。
火災の延焼: 大規模な火災が発生した場合、大勢の人が道路に滞留していると、避難経路が塞がれ、延焼に巻き込まれる危険が高まります。
1-3. 救命・救助活動の妨げになる(加害者リスク)
緊急車両の通行不能: 大量の帰宅困難者が一斉に歩道や車道に溢れると、救急車、消防車、緊急輸送車両などの通行が妨げられ、人命救助や消火活動、救援物資の輸送に大きな支障をきたします。
「助かる命が助からない」: あなたの行動が、間接的に**他の被災者の命を危険に晒す「加害者」**となる可能性があることを理解しておく必要があります。
1-4. 精神的・肉体的な疲労と健康悪化
体力消耗: 長時間の徒歩帰宅は、特に災害直後の混乱した状況下では想像以上の体力を消耗します。
健康問題: 寒暖対策不足による低体温症・熱中症、トイレ不足によるエコノミークラス症候群や体調不良(水分を控えることによる脱水など)のリスクが高まります。
見出し2:災害直後の「命を守る」行動指針
大規模地震発生時、帰宅困難者対策の基本は「むやみに移動を開始しない」ことです。
| 段階 | 行動の原則 | 具体的な行動 |
| 直後 | まず命を守る | その場に留まり、身の安全を確保(落下物、倒壊物から離れる)。 |
| 待機 | 一斉帰宅を抑制 | 勤務先や学校などの安全な施設に留まる(施設内待機)。従業員は企業の指示に従う。 |
| 情報収集 | 冷静な判断材料を得る | 携帯ラジオ、災害用伝言ダイヤル、公共交通機関の情報、自治体の防災情報などを活用し、正確な情報を入手する。 |
| 帰宅判断 | 安全が確認できたら | 企業の指示や交通機関の運行再開見込み、帰路の安全(火災、倒壊リスク)を考慮し、翌日以降の帰宅を検討する。 |
| 徒歩帰宅 | 幹線道路を選ぶ | やむを得ず歩く場合は、広くて安全な幹線道路(沿道に建物倒壊のリスクが低い)を選び、集団で行動する。夜間は危険なため、一時滞在施設を利用する。 |
見出し3:【帰宅困難者に備える】平時にすべき3つの準備
いつどこで被災しても安全を確保できるよう、日頃から以下の備えをしておきましょう。
3-1. 会社や外出先に「3日分の備蓄」をする
政府や自治体のガイドラインでは、企業は従業員を安全に施設内に**3日間(72時間)**滞在させるための備蓄が求められています。個人も、オフィスや学校のロッカーなどに以下の物品を備蓄しておきましょう。
水・食料: 飲料水、高カロリーの簡易食料(栄養バー、ビスケットなど)
衛生用品: 簡易トイレ(最も重要)、ティッシュ、ウェットティッシュ、マスク
防護用品: 軍手/作業用手袋、歩きやすい靴(オフィスに常備)、防寒具(使い捨てカイロ、ブランケット)
情報・連絡: 携帯電話の充電器(乾電池式も推奨)、携帯ラジオ、地図
3-2. 家族の安否確認方法を明確にする
災害時は電話回線がパンクし、通常の連絡手段は使えなくなります。
連絡手段: 災害用伝言ダイヤル「171」、**災害用伝言板(Web171)**など、安否確認サービスの利用方法を家族全員で確認しておく。
集合場所: 一時滞在施設や避難所など、自宅以外の集合場所を事前に決めておく。
「帰宅しない」宣言: 災害発生時は「むやみに帰宅せず、職場などに留まる」ことを家族と共有し、無事を伝えられたら翌日以降の帰宅に切り替えることを約束しておく。
3-3. 帰宅経路と一時滞在施設を確認する
帰宅ルートの確認: 職場などから自宅までの複数の徒歩帰宅経路(幹線道路をメインに)を地図やアプリで確認し、実際に歩いてみる。
帰宅支援ステーション: 自治体と協定を結んだコンビニ、ガソリンスタンド、飲食店などが「災害時帰宅支援ステーション」となり、水道水やトイレ、情報を提供してくれます。経路上の場所を事前に確認しておきましょう。