地震の「初期微動」と「主要動」の正体!P波とS波の役割と違いを徹底解説
地震が発生したとき、最初にカタカタという小さな揺れが来て、その数秒後にグラグラと大きな揺れが来る——。誰もが経験するこの現象は、地中を伝わる2種類の地震波、P波とS波の性質の違いによって起こります。
このP波とS波は、それぞれ異なる役割を担っており、その違いを理解することは、緊急地震速報の仕組みや地震への備えを深く知ることに繋がります。
ここでは、地震防災や地震学の基本として不可欠なP波とS波の役割と特徴を、初心者の方にも分かりやすく解説します。
1. P波とS波の決定的な違い:速度と揺れの性質
P波とS波は、震源(地震が発生した場所)から同時に発生しますが、地中を伝わる速度と、岩石を揺らす性質がまったく異なります。
項目 | P波(Primary Wave / 縦波) | S波(Secondary Wave / 横波) |
揺れの名称 | 初期微動(しょきびどう) | 主要動(しゅようどう) |
役割 | 警報(先行者) | 被害の本体(破壊者) |
伝わる速さ | 速い(秒速約5〜8km/s) | 遅い(秒速約3〜5km/s) |
揺れの性質 | 進行方向と同じ向きに振動する縦波 | 進行方向と垂直な向きに振動する横波 |
地面の揺れ方 | 上下・前後の小刻みな揺れ | 左右・水平方向の大きな揺れ |
揺れの大きさ | 小さい(被害は少ない) | 大きい(被害の大部分を引き起こす) |
伝わる物質 | 固体・液体・気体すべて | 固体(岩石)のみ |
P波の正体:岩石の「伸び縮み」を伝える縦波
P波(Primary Wave/プライマリー・ウェーブ=最初の波)は、波の進行方向に対して、振動する向きが同じであることから「縦波」とも呼ばれます。
例えるなら、音波と同じように、岩石や地盤を圧縮と膨張(伸び縮み)させながら伝わるため、最初に到達しても揺れの幅は小さく、主に上下や前後の微細な揺れを引き起こします。これが、初期微動です。
S波の正体:建物に深刻な影響を与える横波
S波(Secondary Wave/セカンダリー・ウェーブ=二番目の波)は、波の進行方向に対して、振動する向きが垂直であることから「横波」とも呼ばれます。
これは、岩石のせん断変形(ねじれやズレ)が伝わる波であり、そのエネルギーはP波よりもはるかに大きいため、左右や水平方向の大きな揺れである主要動を引き起こし、建物の倒壊や液状化などの深刻な被害をもたらします。
2. P波の最も重要な役割:緊急地震速報の「トリガー」
P波が持つ最も重要な現代的な役割は、その速さを利用してS波の到達を予測し、警報を発することです。
S波が来る前の「貴重な時間」を稼ぐ
P波はS波よりも約1.7倍速く伝わります。この速度差が、防災上のタイムラグを生み出します。
地震が発生し、震源近くの観測点でP波をいち早く検知します。
電気信号(光の速さで伝わる)で観測データを気象庁などに瞬時に伝達します。
P波のデータから震源、マグニチュード(地震の規模)、そしてS波の到達時間が計算されます。
この計算結果をS波が到達する前に緊急地震速報として発表します。
この仕組みにより、震源から離れた場所では、S波による強い主要動が来る前に、私たちが身の安全を確保するための数秒から数十秒の猶予を得ることができるのです。
初期微動継続時間と震源距離の推定
P波とS波の到着時間の差(初期微動継続時間=S-P時間)は、震源からの距離を推定する基本原理にもなっています。
震源から遠い場所ほど、P波とS波の到着時間の差は長くなります。
この時間差を計測することで、観測地点から震源までの距離を割り出すことができます。
3. S波の役割:被害の本体と地球内部構造の解明
S波は「地震による被害の本体」という直接的な役割だけでなく、地球科学においても重要な役割を担っています。
揺れの増幅と被害拡大
S波の大きなエネルギーは、特に軟弱な地盤や沖積平野で揺れが増幅しやすい性質を持っています。
共振: S波の周期と建物の固有周期(揺れやすい周期)が一致すると、揺れが増幅され、建物に甚大な被害が出ます。
震度決定: 報道機関が発表する震度は、主にこのS波による主要動の強さに基づいて決定されます。S波は私たちの生活空間における防災対策において、最も意識すべき「揺れ」なのです。
地球内部の構造解明に貢献
S波は、固体(岩石)しか伝われないという特殊な性質を持っています。
この性質を利用し、地球内部をS波がどのように伝わるかを観測した結果、地球の中心部にある外核が液体(流体)であることを突き止めることができました。液体である外核は、S波を遮断または減衰させてしまうため、S波が伝わらない**シャドウゾーン(影の領域)**ができるからです。
S波は、私たちの生活を守る上でも、地球の構造を知る上でも、欠かせない役割を果たしているのです。
まとめ:P波とS波の役割分担
地震が発生したとき、P波とS波は次のような役割分担で私たちに到達します。
P波(初期微動)の役割 | S波(主要動)の役割 |
1. いち早く到達し、地震の発生を知らせる。 | 1. 大きな破壊力で被害の大部分を引き起こす。 |
2. 緊急地震速報を発動させるためのトリガー。 | 2. 震度を決定づける揺れの本体となる。 |
3. S波が来るまでの避難時間を稼ぐ。 | 3. 固体しか伝われない性質で地球内部構造を解明する手がかりとなる。 |
このP波とS波の違いを理解し、「カタカタ」が来たらすぐに身を守るという行動を習慣づけることが、地震の被害から自分自身と大切な人を守るための最も重要な一歩となります。